代々木上原の顔『ランタン』。急拡大を続ける居酒屋の影にスタッフの急成長あり
成長を続ける飲食店に欠かすことができない人材の募集と育成。人手不足が大きな課題となっている飲食業界の中で、優れた経営者はどのようなアプローチを続けているのだろう?
今回インタビューを実施したのは、グルメ激戦区である代々木上原で頭角を現す株式会社シェルシュの代表者・丸山智博さん。ビストロ・居酒屋を中心に多角的な業態を生み出し続ける立役者は、人材採用・育成においても包括的な視点でチャレンジを続けていた。
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個性輝く環境づくりこそ会社の価値
2010年、代々木上原駅前に誕生した『メゾン サンカントサンク』。旬の食材を生かしたビストロ料理と自然派ワインなどが評判を呼び、雑誌『東京カレンダー』にて「代々木上原の“街の顔”」と評されるほど、グルメシーンを牽引する存在となった。2014年にはフレンチ版の大衆居酒屋『ランタン』を同駅前にオープン。こちらも18坪40席の規模で月商800万円を売り上げる繁盛店に成長し、ビストロだけでなく居酒屋業態でも多くのファンから愛され続けている。
そのほかピタレストラン『ラ ピタ ドゥ メゾンサンカントサンク』、うつわギャラリー『アエル』の運営、ケータリング業や飲食店プロデュース業でも活躍を続ける丸山さん。「さまざまな役割を持つ個性豊かなスタッフから成り立っています」と現在の事業を説明する。
「例えば勤続15年、創業時から一緒に厨房に立っていた女性スタッフの場合は、産休・育休明けのタイミングで現場から離れ、執行役員として総務で活躍しています。そもそも彼女が復帰しやすい環境をつくりたかったですし、同世代のスタッフも家庭環境が変わるなか、特定の条件でしか働けない会社にはしたくなかったんです」
現在、シェルシュに在籍するのは社員27名、アルバイト約30名。それぞれが自己表現できる場所を探し、どのようにキャリアを積み上げるか、共に考えることを大切にしている丸山さんだが、当然、それだけで飲食店の経営が順調に進む訳ではない。
おいしいだけで繁盛店は生まれない
2021年3月26日、代々木上原駅から徒歩8分の住宅地にオープンした居酒屋『ごらく』。こちらは有望なスタッフが自己表現できる場所として、メニュー作りや経営方針など広範囲を任せたシェルシュの新業態だった。フレンチの技法を駆使した上質な和食、老舗の居抜き物件に現代的要素を加えた空間……コロナ禍での出発ではあったが、長く愛され続ける名店の要素は揃っているように思われた。
「ものすごく良いお店でした。でも、経営は軌道に乗らなかったんです。反省点は、僕が一人一人のスタッフを、しっかりと見ることができていなかったこと。店舗からの報告をチェックするなど舵取りはしていましたが、現場からの本当の声に気づくことができなかったのだと思います」
当時、飲食店のプロデュース依頼が殺到し、現場から遠ざかっていた丸山さん。「自分は何をすべきか」改めて見つめ直し、再び厨房に立つ決心を固めた。
「原点回帰という訳ではありません。しっかり現場からの声を拾い上げ、スタッフそれぞれの『好き』を見極め、適切な役割を考えるための現場復帰でした。第一に感じたのが『知らないところで、みんな成長しているな』ということ。それが分かればチャンスを与える機会も増やせます」
丸山さんが推進したのは、他業態店舗との意見交換や共同開発をはじめ、イベントの企画・出店、生産者への訪問など、スタッフの個性に合わせた出会いのセッティング。同じ志を持つ仲間たちと、それぞれが切磋琢磨できる環境づくりだった。
「コストを考えればマイナス面もありますが、うちは取引業者が非常に多いんです。『この業者と新規取引したい』というスタッフの意見をできるだけ尊重していますから。ファーマーズマーケットで出会った相手だったり、訪問営業で魅力を感じた相手だったり。ここ最近では、出会ったばかりの酒屋さんが、たくさんの酒造家さんを引き連れてきたこともありました」
会社という枠を越えた新しい仲間との出会いの場を設け、それを互いの成長につなげるチャンスとする。そうした刺激があれば、スタッフのモチベーションも自然に高まるものだ。働く人が盛り上がれば、店も盛り上がる。
一方で『ごらく』は内装などを引き継ぎつつ、2024年1月20日から丸山さん主導により大人の隠れ家居酒屋『LANTERNE はなれ(以下、はなれ)』として再出発。リニューアル前までは月商300万円に満たないことさえあった売上も、再出発後は右肩上がり。現在は月商550万円まで伸びている。
